㈱大和総研 金融調査部 主席研究員 内野 逸勢


 自由民主党・公明党が2022年12月16日に公表した「令和5年度与党税制改正大綱」(以下、大綱)では、NISA制度(個人投資家のための税制優遇制度)の抜本的拡充・恒久化が図られた(=新NISA)。その理由として、「『資産所得倍増プラン』の実現に向け、『貯蓄から投資へ』の流れを加速し、中間層を中心とする層が、幅広く資本市場に参加することを通じて成長の果実を享受できる環境を整備することが極めて重要である」ことを挙げている。つまり、資産所得倍増プランの大前提である貯蓄から投資への資産形成に政府主導の政策で本格的に取り組むことを意味している。

 14年1月にスタートした現行NISA制度では、毎年120万円の非課税投資枠が設定され、株式・投資信託などの配当・譲渡益などが非課税対象となる。通常、株式や投資信託などの金融商品に投資した場合、これらを売却して得た利益や受け取った配当に対して約20%の税金がかかるが、「NISA口座(非課税口座)」内で、毎年一定額の範囲内で購入したこれらの金融商品から得られる利益が非課税になる。成年が利用できる一般NISA(株式・投資信託などを年間120万円まで購入でき、最大5年間非課税で保有可能)・つみたてNISA(一定の投資信託を年間40万円まで購入でき、最大20年間非課税で保有可能)、未成年が利用できるジュニアNISA(投資信託などを年間80万円まで購入でき、最大5年間非課税で保有可能)の3種類がある。新NISAは24年からの利用開始が予定されており、23年末で現行NISAでの買付が終了となる。ただし新NISAの枠外で現行NISA(非課税口座内にある商品)の運用が継続できることとされた。

 新NISAの主なポイントとしては、(1)NISA 制度の恒久化、(2)非課税保有期間の無期限化、(3)累計投資上限の新設、(4)従来の一般 NISA・つみたてNISAの一体化、(5)年間投資上限の拡大、(6)累計投資枠の復活、(7)成長投資枠(従来の一般NISA)における投資対象の制約が挙げられる。上記(1)と(2)だけでもかなりのインパクトがあるが、上記(3)~(7)では、利用者のライフイベントを考慮した資産形成目的を達成するために、投資経験に応じた運用方法の選択が可能となり、年間上限額が現行のNISA以上に充足されたといえよう。例えば、上記(4)では、従来のつみたてNISAを引き継ぐ「つみたて投資枠」、従来の一般 NISAを引き継ぐ「成長投資枠」を設け、現行制度は併用不可であった二つの枠は併用可としたことが挙げられる。これによって、投資未経験者がつみたてNISAで投資を始め、投資経験を積んでから、個別株にも投資できる「成長投資枠」も併せて利用することが可能となる。加えて、上記(5)では、年間投資上限額はそれぞれ別枠で設けられており、つみたて投資枠が年間120万円、成長投資枠が年間240万円となっている。これらを併用することで計年間360万円までの投資が可能となる。また、非課税保有期間の無期限化により累計投資額が青天井になることを防ぐため、累計投資額の上限が設けられた。累計投資額の上限は新NISAで1800万円、成長投資枠はNISA制度全体の内枠として1200万円となった。さらに上記(6)では、NISAで買い付けた投資信託や上場株式などの簿価残高につき上限金額内であることを求め、売却した場合は、その簿価の分だけ累計投資枠が復活する制度になる。この累計投資枠が売却により復活することで、NISAは結婚資金、住宅資金、子どもの教育資金などライフステージに応じて必要となる資金を運用して資産形成を進め、一度その資産を取り崩した後もまた次のライフイベントに向けて資産形成を再開するといった柔軟な使い方ができることとなる[注1]。

 他方、新NISAでは、各利用者の資産形成目的に適合した望ましい資産ポートフォリオ(株式、債券、投資信託、預貯金などの金融商品の組み合わせ)・資産配分(各金融商品に割り当てる実際の投資額)の実現がこれまで以上に重要となり、これを指南する専門的な助言者(助言機関)が求められている。金融庁は、金融経済教育推進機構(仮称)[注2]を設立し、金融経済教育の充実・強化と中立的な助言サービスの提供を行う役割を担う組織として機能させる予定である。この「中立的」とは顧客の立場に立ち、特定の金融事業者や金融商品に偏らないことと解釈できるが、これを実現するためのハードルは高い。つまり1)多種多様な国内外の金融商品を網羅し、それらに付随するリスク(金融商品から期待される収益の変動の度合いであり、これが大きければリスクは高い)を継続的に把握していることと、2)顧客の生活、所得、財産状況の変化に合わせて、資産形成の目的を常に把握できる情報を蓄積していることの両方が必要となり、どちらかが欠けていても中立的な助言を提供することは難しいであろう。利用者に対する金融経済教育も、中立アドバイザーの研修も、画一的なプログラムでは大きな効果は期待できない。上記1)と2)の両立を中長期的に可能とする金融商品および顧客の情報を助言機関あるいは金融機関に蓄積する仕組みを構築していくことが必要ではないか。                    

(1月20日執筆)

[注1] 藤原 翼、是枝俊悟「NISA抜本的拡充は資産所得倍増を実現しうる内容」大和総研レポート2022年12月21日

[注2] 鈴木金融担当大臣「第3回資産所得倍増分科会配布資料」内閣官房2022年11月25日